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NPO法人ジャパンワイルドライフセンター(JWC)は野生動物の保護を目的として設立された野生動物保護団体です。

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動物・環境ニュース

2020/07/22
動物保護に迫るパンデミック
 世界に蔓延している新型コロナウイルス(covid-19)は、人類の生命を脅かす存在ですが、これは、絶滅危惧種を保護している人々も深刻な状況に追いやられています。医薬品やマスクの不足、各地のロックダウンによるチャリティ活動の制限で、保護施設の運営に危機が迫っています。

 アマゾンの熱帯雨林にあるエクアドルのメラゾニア(Merazonia)という野生動物保護センターで働く獣医師のLouisa Baillieさんは、人口8000人ほどのメラという村の近くで、果物と野菜をリュックに詰め込んだ後、葉を拾い、道沿いの木についているシロアリを捕って、アリの巣のかけらが入っているバケツに入れます。シロアリは、最近警察の検問所で捕獲されたアンディーという、キタコアリクイの赤ちゃんの夜ご飯になります。

「いつもは(夜ご飯の)買い物へ週に2回ほど出かけるのですが、現在動き回ることが難しくなっています。今私たちはもっと定期的な短めの買い物を試みていて、村へ出かける旅、その道のりで何か拾えるものがないか見ているのです。」

これはエクアドル政府が、新型コロナウィルス感染の対策として国内での人の動きの制限をしている為、いつものようなショッピングは制限され、身近で入手できる物を代用しているのだというのです。
メラゾニア野生動物保護センターでは、オマキザル、タマリン、ホエザル、キンカジューやピューマを含む100匹ほどが収容されており、大半は南アメリカで行われていた不法な野生動物取引から保護された動物で、ほとんどが野生に返すことができないのが現状。センターの寄付金はボランツーリズムで得ていますが、外国人観光客が国内へ入国できない状況により、これを持続することも困難となってしまっています。

同じように、ボルネオ島南部のインドネシア領カリマンタンにあるオランウータン保護センター(The Centre for Orangutan Protection)も、感染拡大を抑えるために現在は一時的に封鎖しています。この施設も動物保護にかかる費用を観光客からの収入に頼っていますが、1月に中国の武漢が封鎖されて以来、保護動物センターへの来場者数も急減しているようです。

他にもWildlife Friends Foundation Thailandという野生動物保護センターとペッチャブリーにあるゾウの保護施設では、新型コロナウィルスの影響により、80%ほどの資金を失っているといわれています。
ここには700匹以上の動物が保護されていて、世話や多くの餌が必要な25頭のゾウのほか、30頭ほどのクマと400匹ほどの霊長類がいます。このまま資金難が続けば、スタッフの50%を解雇せざるを得ず、そうなれば保護センターは早ければ1、2か月、長くても3か月くらいで継続が難しくなるだろうと予想されています。
Free the Bearsというオーストラリアの非営利団体が運営するラオス、カンボジア、ベトナムの保護施設では、18年以上ベトナムのクマ農場の檻に閉じ込められていた雄と雌のクマを2月半ばに保護する計画を立てていましたが、ベトナム政府が一時的に国内の野生生物の移動および販売を停止したことにより、計画は頓挫してしまいました。(※その後、何とか保護されています。)

一方で、アジアの野生動物保護活動家にとっての希望の光も見え始めています。2月下旬、中国では一時的に野生動物の取引と消費を禁止することが決まり、これは今年度後半で法律として成立することが予想されています。
Animals AsiaというNGOを22年前に創立したJill Robinsonは、何十年もの間、政府に対し野生動物取引を禁止にするよう強く働きかけてきた人物の一人です。皮肉にも、新型コロナウィルスという人類にとって大きな敵のおかげで、野生動物取引禁止という目標はついに実現され始めました。

新型コロナウィルスは、様々な分野に影響を及ぼしています。野生動物保護施設も例外ではありません。自宅に居ながらでも野生動物保護は寄付という形で行うことができます。もし皆さんが、インターネットで気に入った野生動物保護施設を見つけたら、ほんの少しでも構わないので、寄付というご支援をご検討頂けたら思います。

情報提供者:大谷碧

2020/07/22
コロナ渦で浮かんだ闇
 最近また新型コロナウィルスの感染者数が増加し、心休まらない日々が続いていますが、動物業界でも今回の新型コロナウィルスにより散見した“ある問題”を早急に見直すべきだとして注目されています。

 世界でパンデミックを発生させている新型コロナウィルス(covid19)について、環境保護の専門家たちは、中国で野生動物を売買するマーケットが発端だという説が有力と考えています。これについては、日本でも話題になりましたが、皮肉にも人類を脅かす新型コロナウィルスが、絶滅の危機に瀕している野生動物売買の抑制に関わる分岐点となったことは確かなようです。

 ある野生動物保護団体のAdam Peyman氏がベトナムのレストランに入った時に、彼は、メニューを見て驚きました。米やヌードル、魚介類とともに、野生動物、しかも絶滅の危機に瀕している動物までメニューに載っているからです。ヤマアラシ、スッポン、野生の豚そして山ヤギなど。しかし、ベトナムでは、これらの食事は豪華なものと位置付けられていて、他のアジア諸国でも、エキゾチックな肉を食べることは、裕福な証とされています。食材や薬として重要な位置を占める野生動物への欲求は、更に野生動物売買を駆り立てます。しかし、特に野生の哺乳類の消費は、人間の健康に真の脅威を投げかけます。何故なら、種間のバリアを超えて病気のキャリアーとなる可能性があるからです。

 Wet markets(ウェットマーケット)は、東南アジアの国々、特に中国本土でよく見られる光景です。人々の活気に満ち、新鮮な野菜や果物はもちろん、鮮魚、ニワトリそして野生動物などが売られています。このマーケットの名の由来は、これらを保存するのに氷が使われ、それが溶けて床が濡れることからきていますが、同様に屠殺時の床の血を掃除することからもきています。
ロンドン動物協会のAndrew Cunningham氏は、このような不衛生なウェットマーケットは伝染病の時限爆弾になり得ると話しています。さらに、我々人類は、野生動物を乱獲し、あたかも自分たちの産物かのように野生動物を取り扱ってきた現状を鑑みると、次は我々が野生動物を含めた自然界からの報復を受けたとしても何の驚きはない、と述べています。

 現在のコロナウィルスのパンデミックは、大多数の感染者と死亡者を出していますが、武漢のシーフードマーケットから始まったという説が有力とされています。 
新型コロナウィルスについては確かな起源はいまだに謎のままですが、他の動物宿主を介して複雑なプロセスを経て人間に伝染したとも考えられています。

 中国政府でも武漢のシーフードマーケットの危険性を踏まえ、野生動物を食肉として消費することを禁止する法制化が進んでいます。ヤマアラシ、ジャコウネコ、カメなどの多くの飼育農場は閉鎖されました。しかし、あくまで食用を目的とした売買を禁止するに留まり、薬やペット、研究のための野生動物の売買は可能なままなのです。

 野生動物の売買にスポットライトが当たったのは今回が初めてのことではありません。2002年に中国で発生したSARS(SARS-CoV)では770人以上が亡くなりました。この時は、コウモリとハクビシンが疑われましたが詳細は未だ解明できないままでいます。

 新型コロナウィルスは、まだ収束すらしていませんが、Cunningham氏は、将来、再びパンデミックをもたらさないために、結果とともに原因に注目しなければならないといいます。
例え、森林を保護したとしても、そこに生息する野生動物はマーケットに流れ、消え失せてしまいます。指摘することは簡単ですが、実際には中国に限ったことではなく、アメリカやヨーロッパ、アメリカ、東南アジアなどその他の多くの国々でも起きている事実です。
記事の最後にも書かれていますが、今販売されているエキゾチックなペットの多くは野生で捕獲されています。
他の生物の命、延いては自分たち人類の命を危険に晒した上で手に入れたものに、いったいどれほどの価値があるのか。私達は今まさにその問題と直面しているのではないでしょうか。

情報提供者:折原美子
2020/06/09
ヨーロッパアナグマ 淘汰という名の駆除、終結
 新型コロナウィルスが問題になっている中、The Guardian紙に、「ヨーロッパアナグマの淘汰の終結」という記事がありましたので、JWCでも紹介させていただきます。

 ヨーロッパアナグマというのは、ヨーロッパ全域と西アジアの一部に分布しているネコ目イタチ科の動物で、日本に生息しているニホンアナグマと同属の動物です。森林から草原、牧場など様々な環境に適応して生息していますが、人間にも感染する重篤な感染症の原因として、駆除の対象とされてきました。

 20世期前半から家畜に感染が広まったマイコバクテリウム ボビス(Mycobacterium bovis)により引き起こされる牛型結核菌。この感染症は、牛の生乳を摂取することで人間にも感染します。牛型結核病は、年間3万頭の牛の強制淘汰と175億円の諸費用が農家と共に納税者にとって大きな痛手となっていました。この牛型結核菌の伝播者として知られるようになったヨーロッパアナグマは、牧場での感染源であることから、イギリス政府は、2013年に国内2か所で駆除を始めました。現在では43か所にも拡大し、これまで処分されたのは10万頭にもおよぶそうです。

 ところが2018年、専門機関のある報告により、牛型結核菌の感染は、売買による牛の頻繁な移動や、農家による感染予防対策の不備が大きな要因になっていることが判明し、ヨーロッパアナグマを駆除するのではなく、マイコバクテリウム ボビスに対するワクチン接種を行うことが重要だと主張されました。

 今回の記事は、イギリス政府がこの報告を受けて、現在行われている駆除を数年内に廃止し、アナグマのワクチン接種に移行すると発表したというものでした。

 記事によると、イギリス政府は農場内での感染拡大を減らすために、牛の移動方法についても適切に行うように検討するとともに、農場の効果的な感染予防対策の取り組みにも専念していくそうです。
さらに結核に感染した牛の多くが、牛同士による感染経路になっていたことから、感染した牛の効果的な診断検査方法の開発と、牛用のワクチン開発も支援するとしています。

 現在の新型コロナウイルスの蔓延により、どこまで実施できるかは定かではありませんが、これで少しはヨーロッパアナグマの淘汰という名の駆除も減るのではないかと考えられます。結果的にはアナグマへのワクチン接種により、他の野生動物への感染リスクも減少することで、生産者や納税者、動物たちとその自然環境にとって、より良い未来になることを期待しています。


情報提供:折原美子
執筆  :JWCスタッフ




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